[研究内容] 放射光源加速器の性能向上と開発

高いエネルギーまで加速された電子が磁場で曲げられると、赤外線からX線にわたる幅広い波長を持つ放射光と呼ばれる光を放出します。 この光を物質に照射して反射させたり透過させたりすることによって、物質を構成する分子や原子の配列や電子状態などさまざまな特性を測定することができます。私たちはこの放射光を発生させるためのリング型光源加速器の研究開発を行っています。

目的・ビジョン
KEKでは二つの光源加速器が稼働中です。 一つはエネルギーが2.5ギガ電子ボルトの電子を蓄積しているフォトンファクトリー(PFリング)、もう一つは6.5ギガ電子ボルトの電子を蓄積しているPF-Advanced Ring(PF-AR)です。それぞれの加速器の特性を活かしてさまざまなユーザー実験が行われています。二つの加速器の性能を高める研究と並行して、既存の加速器では達成できない性能を持った、次世代の光源を実現するためのさまざまな研究開発も行っています。

概要
PFリングの歴史は古く、1982年に放射光の取り出しに成功して以来、40年以上にわたって放射光科学および加速器科学の発展に大きな役割を果たしてきました。加速器は1周187mの長さをもち、そこに2.5ギガ電子ボルトのエネルギーを持つ電子を蓄積しています。このような高いエネルギーを持った電子を電磁石で曲げたときに発生する放射光は、その高輝度性や偏光特性などから今やさまざまな研究分野において必要不可欠なツールとなっており、全国の大学や研究所、企業などの共同利用施設として運用されています。

光源加速器に携わっている研究者は単に加速器の運転維持を行っているのではありません。より微細な構造を短時間に測定するためには電子ビームのサイズをできるだけ小さく絞る高輝度化(1997年)が必須でした。また、アンジュレーターに代表される挿入光源の研究も行ってきました。真空中に永久電磁石列を置いて強い放射光を発生させる「真空封止型アンジュレーター」を世界で最初に実現させたのもKEKのPF-ARです。

また、電子ビームが加速器の中で不安定になってしまう現象があり、これを理論と実験の両面から解明するための研究のほか、真空や表面、高周波装置、大電流電源、パルス電源など、幅広い分野にわたる研究開発を行っています。例えば蓄積している電流値を一定にするトップアップ入射を実現したり、その入射時にビーム振動を極限まで抑制するためのパルス多極入射システムを開発したりするなど、さらなる性能向上のための努力を継続的に行っています。

一方で、蓄積型の加速器では大強度の電子を長時間保持することができる利点があるものの、どうしてもビームサイズの広がりが大きくなってしまいます。これを克服するには、線形加速器を使って常に新しい高品質ビームを供給し続けることが一つのやり方なのですが、通常の線形加速器ではビームの平均強度が非常に弱くなってしまうという欠点があります。そこで、私たちは高輝度・短パルス電子ビームをつくり出すことのできる超伝導線形加速器と高性能蓄積リングという二つを組み合わせた「ハイブリッド」型放射光源を提案しています。この次世代の光源を実現するための研究開発や、エネルギー回収型リニアック(ERL)の研究開発を、応用超伝導加速器イノベーションセンター(iCASA)と協力して行っています。

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