三浦 一喜准技師がKEK技術賞を受賞
加速器研究施設・加速器第一研究系技師 三浦 一喜(みうら・かずき)准技師が令和5年度KEK技術賞を受賞しました。2月13日に表彰式と受賞発表会が開催されました。受賞タイトルは、「J-PARC MR 大強度化のための高繰り返し化対応主電磁石新電源への技術的貢献」です。三浦氏の業績は、J-PARCの大強度化プロジェクトにおいて欠かすことのできない主要な技術であり、約10年にわたる成果が大強度化に多大な貢献をしています。
前列左から3番目が三浦准技師
表彰式写真
受賞講演する三浦准技師
三浦氏のJ-PARC MR主電磁石電源と大強度化に関わる業績は多数ありますが、受賞対象となったのは次の三つの技術貢献についてです。
1)実証試験用ミニモデル電源
試験用ミニモデル電源は、スイッチング素子にIntelligent Power Module (IPM)を使用したコンパクトなフルブリッジチョッパユニット回路 (交流を直流に変換する回路の一種、大電力に適している)として開発されました。このミニモデル電源は、BM新電源主回路の構成から、系統接続部とフローティング部を一組ずつとする最小単位で構成され、キャパシタバンク静電容量と充電電圧を10分の1程度としたものです。トランスやキャパシタバンク、フィルタなどを含めた最終的なサイズは、19インチラック2台分(H:2.5 × W:1.0 × D:1.0 メートル)となりました。実際のBM新電源のサイズが全長 22 メートルであるので大幅な小型化を実現しています。
図1. ミニモデル電源
このIPMを用いたミニモデル電源により、KEKでは初めての採用となるキャパシタバンク方式(エネルギー貯蔵装置)に関してのKEK製制御装置の原理実証実験を成功させることができました。また、この電源では低容量でかつ安全な試験環境を提供できることから、その後の実機電源開発における各種試験のテスト装置として効力を発揮しました。
2)出力電流フィードバック用A/D変換部恒温槽
ビームの大強度化に向けて必須となる電磁石電流の高精度制御のためには、計測部(DCCT)だけでなくA/D変換部における電流計測にppmレベルでの安定度が必要となりました。この測定安定度の実現には、A/D変換基板および、シャント抵抗を一定温度に保つためのコントロールが重要です。そこで、三浦氏はA/D変換基板、シャント抵抗のそれぞれの温度特性を考慮し、出力電流値に対して誤差10 ppm以内(A/D基板:±2.5 ℃、シャント抵抗±2.0 ℃)での制御を目標と定めて恒温ユニットを提案しその開発に取り組みました。コントローラーは、ホイートストンブリッジ(抵抗の精密測定に用いられる電気回路)と計装アンプを用いた検出部と、オペアンプを用いたPI制御による制御部によって構成されています。基本動作としては、恒温槽内の温度コントロール対象部に仕掛けた白金抵抗測温体(Pt100)の測定値とコントローラーの温度指令抵抗器による設定値をブリッジで比較、PI制御を介して終段のパワーアンプで増幅した駆動電力をペルチェ素子に供給することで温冷双方向の温度制御を可能とさせました。次に恒温槽筐体については、KEK製制御装置盤内に格納するため、A/D基板およびシャント抵抗のみを格納するコンパクトサイズの恒温槽としました。
図2-1. 温度制御回路
図2-2. 恒温槽概念図
この恒温槽によりKEK製制御装置における高精度電流制御で重要となるA/D変換部の温度制御(出力電流換算でppmレベル)を、アナログ素子で構成した 低ノイズ恒温槽で実現しました。
3)可搬型高精度出力電流測定ユニット
新旧電源を同一条件下で測定・較正することを可能とする新たな測定系が必要となりました。この測定系の主要目的は、「導入から10年以上が経過した旧電源の現状および個体差を把握」、「新旧電源を同一測定条件下で性能評価」、「アップグレード後の新電源システムに対し、旧電源測定結果を基に個体差を再現させる形で出力電流較正を実施」でした。三浦氏の提案した電流測定ユニットの構成は、電源から主電磁石への出力端子とケーブルの間にDCCTヘッドを取り付けた状態のブスバーを挿入し、測定された出力電流値はDCCTアンプを介してデジタルマルチメーターに取り込まれるものです。DCCTヘッドとブスバー(電路)のアライメントは測定の系統誤差の原因となるため、DCCTヘッドとブスバーの位置は常に固定となる構成としています。
図3-1. 可搬型高精度出力電流測定ユニット構成図
図3-2. 一体化したDCCTヘッドとブスバー
この方式で高い精度での測定の信頼性を確認し、主電源全ての出力電流を同一測定系で 評価可能な測定ユニットとしての開発に成功しました。この装置により新電源インストールに際し、新旧電源性能評価を行うと共に、測定された電流カーブの較正によってアップグレード後のビーム再現性向上に寄与しました。
<受賞者インタビュー>
「苦労したことは?」
それ自体が特注品である加速器機器(本件における主電磁石新電源)というものに対する機器開発において、目標とする性能を達成させつつも、一般流通部品や既存物品リユースなどを活用し、Low Cost & High Availabilityな機器開発をいかに行うかという点に苦心しました。
「受賞して思ったことは?」
私がKEKに就職してからの約10年間携わってきた新電源プロジェクトへの技術貢献に対して、このような賞を頂けて嬉しく思います。私としては本受賞は、グループとしての成果に対する受賞だとも考えています。所属グループメンバーをはじめとし、各機器開発に際して助言、助力を頂いた皆さまあっての受賞です。改めてありがとうございました。
「将来の抱負は?」
新電源は開発・インストールを終え、実際のビーム運転に使用する段階に入っています。発表内でも触れていますが2023年12月には”1.36 sサイクル運転実現によるMR当初設計値750 キロワット達成”という成果も出すことができました。これからは、新電源をより安定稼働させるための電源調整や、開発した各機器のメンテナンス、技術伝承を行っていきたいと考えています。
~ 文責:加速器第一研究系 佐藤 吉博 ~