KEKの教育用加速器(KETA)が運転を開始
教育的利用を主な目的としてKEKが建設を進めてきた教育用加速器(KETA: KEK Education and Training Accelerator)が完成し、9月からビーム運転を開始しました。
KETAは、加速器科学の分野で活躍する人材の育成を目指し、大学加速器連携ネットワークによる人材育成等プログラム(IINAS)のプロジェクトとして2018年から建設を開始しました。対象は、高等専門学校生、大学院生、加速器に携わる大学や企業の研究者を想定しています。KETAの建設中には、加速器への理解を深め、また加速器の要となる電子銃やRF源などの基礎を学ぶセミナーを毎年開催し、昨年度からは総合研究大学院大学(総研大)の授業でも活用されています*。さらに運転を開始したKETAでは、授業や加速器セミナーなどで実習をおこなって加速器の研究や運転の一部を経験することができます。
KETAの建設は加速器研究施設のOBと現役が協力して行い、古い装置を再利用するなど様々な工夫を重ね、手作り感満載の装置として完成しました。KETAは図1に示されるように、熱電子銃、S-band定在波型バンチャー、S-band 2 m進行波加速管で構成された線形加速器で、最大25 MeV、100 nAの電子ビームを生成します。仕様については表1をご参照ください。
図1:KETA全体の俯瞰図
表1:KETAの各種モードと定格
教育目的の他に、最大11 MeVの電子ビーム照射試験を行うために、照射部も設けています。原子力規制庁の変更許可申請の承認を経て2022年3月下旬から試運転を開始し、9月には施設検査に合格して、授業や照射試験でのビーム運転が可能となりました。
KETAでは装置の立ち上げからビーム運転までを経験して加速器の理解を深めるだけでなく、自分でビームモニターや種々の装置類を設計し工夫して組み込んでみることも可能です。実習の際に照射試験でプラスチックにビームを照射しリヒテンベルグ模様を記念に持ち帰るのも一興です。
図2:KETA全体図
図3:RF源(クライストロン)
図4:電子銃出口でのビームプロファイル
*セミナー(実習)の様子(IINASプログラムWebページ)
<資料>
福田 将史他「教育加速器の設計と建設」第18回 日本加速器学会年会(2021)
福田 将史他「教育加速器(KETA)におけるビームコミッショニング」第19回 日本加速器学会年会(2022)
〜 文責: 加速器応用超伝導加速器イノベーションセンター 福田 茂樹〜