加速器で生成される電子と陽電子を超高速で見分ける技術を世界で初めて開発 - 標準理論を超える物理を探索する実験の高効率化に期待 -

大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構

概 要

高エネルギー加速器研究機構(KEK)加速器研究施設研究グループのムハンマド・アブダル・レーマン(Muhammad Abdul Rehman)博士研究員、現中国科学院高能物理研究所(IHEP)研究員 諏訪田剛(すわだ つよし)教授は、KEK電子陽電子線形入射器の陽電子捕獲部に広帯域ビームモニターを新たに設置し、電子・陽電子捕獲過程の可視化に世界で初めて成功しました。

陽電子捕獲部とは、SuperKEKBに要求される陽電子を効率よく生成し捕獲するための装置です。詳細なシミュレーションによると、陽電子捕獲部の中では陽電子だけでなく電子も同時に捕獲されます。電子と陽電子は複雑な捕獲過程を経て、電子の後に陽電子 (又は陽電子の後に電子)が、加速条件に依存して20-280ピコ秒離れて走行します。両者の時間差は極めて短いので、これまでの研究では陽電子捕獲部における電子・陽電子の同時分離計測に成功した例がありませんでした。

今回、広帯域パルス計測技術を取り入れたビームモニターの導入により、電子・陽電子の同時分離計測に初めて成功し、走行時間差の定量的計測が可能になりました。図1に示すように、形状は至って単純な棒状の電極です。綿あめは細い糸状の飴ですが、箸を使うとこれをうまく絡めとることができます。この電極は、まるで綿あめの箸のように、電子・陽電子から放出される電磁気力線を超高速に絡めとることができます。この棒状電極が今回の広帯域パルス計測を実現するカギとなりました。ビーム試験を実施したところ、電子・陽電子の走行時間差が加速位相に依存して複雑に相関していることが可視化により分かりました。これは陽電子の高効率捕獲につながる重要な知見です。

この成果は、現在KEKが進めているSuperKEKBや次世代の大型線形加速器における陽電子生成の高効率化と安定化に大きく貢献するだけでなく、超短パルス計測技術を利用するリアルタイム計測システムへの応用が期待されます。

本研究成果は、英国学術誌『Scientific Reports』オンライン版(2022年11月3日:英国時間)にてオンライン公開されました。

本研究成果のポイント

・ SuperKEKB加速器では、電子と陽電子を光速近くまで加速して正面衝突させるが、自然界にはわずかしか存在しない陽電子を人工的につくるとき電子も同時に混じって出て来るため、陽電子だけを効率よく分離する技術が求められている。

・ 電子と陽電子は数十~数百ピコ秒というわずかな時間差で出てくるが、新たに開発された広帯域ビームモニターと呼ばれる装置ではリアルタイムできれいに見分けることができ、陽電子の捕獲・分離する効率を大きく高められることがわかった。標準理論を超える物理を探索する実験のカギとなるルミノシティの向上につながることが期待される。

・ このビームモニターは放射線量が非常に高いところでも動作するため、この技術は原子炉の炉心近くや宇宙空間といった厳しい放射線環境下での量子ビーム計測へ広く応用できる可能性がある。

問合せ先

高エネルギー加速器研究機構(KEK)広報室
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